先日�K田日銀総裁がこの16日から日銀金利をマイナスにすると発表。インフレターゲット ２％を達成するために円安、市中銀行からの企業への貸出、そして消費者の消費の促進を狙ったもの としている。だが、実質円高・株安になり、逆効果が現れだしている。きっとその現実経済のレスポンス の方が、正しい真実なのだろう。その原因は、このホームページで再三繰り返している 制限環境という条件にあると思われる。その根拠を、以下に説明していこう。

囚人のジレンマの構成メンバーを 4者にする。「胴元」である地球、「私」、「政府」、そして私以外の「全他者」の計4者が、 政府発行の貨幣や国債で経済活動をしているとする。私は都市近郊で建築業を営み、 生計を立てているとする。さて、貨幣や国債やデリバティブ（ローンの証券化）などはどんな 位置づけになるだろうか。まず胴元である地球が無制限に資源をもっている場合・・・

• 政府は、国の信用で貨幣を発行し、また国債を刷り他者（銀行も含む）から金を借りる。 私は、政府や他者からの注文で建物を建てて納品し、金を支払ってもらい、自分の生活を 成り立たせている。他者もそれぞれで生計を営んでいる。国債で金を増やすことになるので、 政府発注の注文もどんどん増えて、私の収入も大きくなる。これが大きな経済成長をもたらす。 胴元はこんな私や他者や政府の活動にびくともしなかった。
• 銀行や証券会社など他者が、その持っている借金証書（ローンを組んで金を貸し、その 借金を回収する権利、つまり債権を持つという証明）をそのまま他者に売り渡したり、 さらには担保にして証券を作り、ハイリスク・ハイリターンのデリバティブを債券として売る。 信用がさらに創造されたことになり、見かけ上貨幣が増えたことと同じ効果になる。 政府も国債などをさらに発行して金を借り、より大きな発注をして、私も大いに潤う。 私の収入も増えて、生活も贅沢になり、他者にも気前よく支払って、他者もよりずっと元気になる。 胴元はびくともしなかった。
• 山登の視点で述べたように、 無制限環境下では“いい人”戦略優勢となるため、利己的な遺伝子の生命体の論理も、 貨幣（資本）の論理も、ヒトの本性である協力欲と齟齬無く、人々はフェアに協調的に 振る舞えて、しあわせに生きていける。
• 当然インフレターゲットも達成されるだろう。国債でもマイナス金利によってでも、 市中に金が増えると、私は建物建設を増やし、そのための原材料購入を増やそうとする。 しかし原材料の供給は一気には増加できないため、需要と供給の時間ラグが生まれ、 需要過剰で値段が上がるからだ。

ずっと良いことずくめではなかろうか？これまで、たびたび胴元のフトコロが厳しそうに 見えたときに不況や恐慌に見舞われたけれど、新大陸発見、産業革命、各種技術革新などのおかげで、 または世界大戦などの戦争で一度作ったものをチャラにしてしまうおかげで、新たな成長の ための隙間を見つけて、経済成長してきたのだ。その間、無制限環境に近いと錯覚できたの かもしれない。だからこの自由競争資本主義はずっと支持されてきたのだ。しかし、その実、 この経済システムのあまりの効率の良さに、もはや本当は胴元のフトコロは文無しになっている のではなかろうか。事実、地球温暖化、資源の枯渇など問題が地球規模になっている。 だから、胴元である地球が制限環境になっている場合には・・・

• まずハイリスク・ハイリターンの債券などは、その元の借金の回収が危なかったから生まれた ものだ。当然借金の踏み倒しが頻発し（アメリカ住宅バブルにおいて、低所得者向けローンを 証券会社などが証券化したのがバブル崩壊で回収不能になり、世界同時不況に繋がった）、 そんな債券を持っていた人たちは大損を被った。「ネズミ講」は詐欺の一種とされ、犯罪行為 に分類される。さて、これら証券化ローンやデリバティブは「ネズミ講」と同じではないのか？ 「ネズミ講」は、人口に限りがあり絶対に破綻する。証券化ローンなどは絶対にと言うことはなく、 ハイリスクなだけなのだ。だが、それは単に程度の差でしかないと思う。最終的に胴元も 有限なことは明らかなのだから。
• 政府発行の貨幣も国債も、さらには他者たちが創造する各種信用も、当座は金に換わるだろう。 すると私も発注を受けて仕事をし、納品してその代金を支払ってもらう。何も問題はなさそうに 思える。しかし、私が使う木材も、鉄筋などの金物も、セメントなどの資材も、すべて胴元の エネルギーや資源に由来しているため、そうした資源をもはや供給できなくなりつつある 胴元では、資材は高騰、私には手に入らなくなる。私が仕事をできる間は、売る価格を 上げれば、使用する資材の値段を差し引いて利益は確保でき、生活はできるだろう。
  　　（山登の視点のところで詳しく紹介したように、 制限環境では、“利己的”戦略優勢となり、私は利己的に振る舞わざるを得ず、それは ヒトの協力欲と矛盾することになり、アンフェア感を募らせ、ふしあわせになる。）
  　　しかし、最後に原材料が無くなってしまえば、もはや何をか言わんや、である。仕事をしようにも、 何もできない。国債も貨幣も、またもし借金の証書や各種債券を持っていたとしても、 すべて紙くず同然になってしまう。政府も胴元も、当然他者も、何かしようにも何もできないだろう。 （現在、私も他者も、ほとんどの人たちがこのことに気づいてしまったのだと思う。）
• さて、上のようになるのなら、政府が国債やマイナス金利で金を市中に増やせば、資源の 乏しい地球上で争って（利己的にでも）原料を買おうとしてインフレになりそうに思える。 するとインフレターゲットを目指すための適切な処置と見えなくもない。
  　　しかし山登の視点でも述べたように、 今や世界の利子率は２％以下に低下し、世界のどこからも剰余利益を確保できない状況になっている。 ＜周辺＞の地域など無くなりつつある。おまけに金融革命、金融緩和により世界的な金余り状況なのだ。 金融ビッグ・バンのおかげで、その金は世界を自由に駆け巡る。だから一国の金融政策などで 左右できる額など、大海の一滴という状況になりつつある。（つまり、少しくらいの増減で 何とかなるものではない。もちろんアメリカ、中国、日本、EUの経済規模は大きく、 世界経済にある程度の影響は及ぼせるのかもしれない。それでも、一国だけの貨幣に 対応すれば良かった以前に比較して、世界規模の“マネー”に対応しなければならない 現代では、その効果はわずかであろうと想像される。）。
  　　そしてこの地球（胴元）の厳しい制限環境を前にして、誰もがきっと上で述べたように、 金（資本）を投資しても回収できないだろう（最後は紙くず同然になる）ことを、意識してか、 無意識にか、感じて、または分かっているのだろう。丁度、度々の不況や恐慌時の大衆の心理と 同じなのかもしれない。
  1929年の世界大恐慌。モノを生産しても売れない、資金を回収できないと誰もが心配し、 金の回収に走り、銀行取り付け騒ぎ、倒産、経済活動の大幅低下に至った。新しく投資しよう など誰も思わず、銀行は貸し手を見いだせない状態になる。今回そんな銀行にマイナス金利 を課して金を融資させようとしても、それは無理難題というものだろう。やるべきは、世界の皆で、 私も他者もこの地球胴元の寂しいフトコロを何とか改善する、または少なくとも胴元も 私たちのメンバーであると認めて、できるだけタカラナイことだろう。そのためにも この自由競争資本主義体制の変更を検討すべき時だと思う。
  または、むしろ山登は、人々はやはりヒトの本性に素直に従って フェアに、そして協調的に（つまり“利己的戦略”を取らないで）生きることを選択しているのだ と受け取りたい。今や人類は皆同じヒトの仲間（50人規模ではないが、人類という明確な大帰属集団） ということが分かっている。私も他者も、その仲間と利己的に資源を奪い合って争うよりも、 乏しい資源を分かち合って生き延びる方策を模索しているのではなかろうか。つまり今や人類共通の 大きな課題（克服すべき障害＝敵）を目前にして、私も他者も協力して解決に当たろうという意欲に 満ち溢れているのだと期待する。だから金が市中に注ぎ込まれても、胴元のフトコロを気遣って、 資本の論理に単純には乗らないようになってしまったのではなかろうか。そして、その解決のためにも、 この資本主義体制の変更が必要だろう。
• 今回のマイナス金利は、私たちがよく引用するゲゼル提案の自由地、自由貨幣を 思い起こさせる。金を持っているだけで、金利を払い続けなければならないという 減価する貨幣だ。貨幣がそういう性質のものなら、納得できるだろうが、世界中の 一部だけでそんなマイナス金利が行われたら、やはり腹立たしいに違いない。しかも、 その弁たるや、インフレターゲット達成のための金融緩和、市中に金を注入するためという。 現世界・地球の状況を、50年前の日本の高度経済成長前と同じに見ているとしか思えない。 つまり、現在の厳しい制限環境のことは考慮せず、単に胴元は常に無限のお金持ちという 前提の経済運営をしてしまっているのだ。 山登の視点でも現代経済学批判でも再三繰り返す 制限環境・無制限環境の区別を無視した詐欺まがいの現代経済学が元凶だと思う。そして 元々は、この自由競争資本主義体制の限界 が顕れているのだと思う。

上記話は、日本と私たちだけのことのように話した。しかし、胴元の地球、 政府の代わりにアメリカ、私、そして私以外の全他者（日本や他諸国も含む）という 4者の設定でも同じことだろう。

• アメリカはドルを発行、また国債も発行。日本を含め全他者は、アメリカの信用 を信じて、ドルを持とうとし、アメリカ国債も持ち続けている。私は、他者のメンバー の日本から発注を受け、生活している。でも、胴元の地球が本当に貧しくなったら、 ドルもアメリカ国債も、円も日本国債も、すべて紙くず同然だろう。地球上の私たちは、 そんな詐欺まがいの経済を営んでいるのだ。詐欺まがいと感じるかどうか、裸の王様 と見るかどうか？

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