国民国家の限界(16.07.31)

国民国家の限界と今後の国際情勢についての山登の期待

『21世紀のホモ・サピエンス』の対談をした増保先生に、 今回NHKスペシャル「新・映像の世紀」のネット画像配信を教えて頂いた。1900年から2000年の間に 映像技術が発達、その記録が歴史の記録として万人に共有される形で残されている。丁度、 第一次世界大戦から第二次世界大戦、冷戦と戦後の経済成長、ベトナム戦争、そしてアラブの春までの 移り変わりを観ることができる。その印象は、まるで歴史の繰り返しに映った。

よく山登は血族、村、郷、藩、国という社会組織体制の変化を引用する。『21世紀のホモ・ サピエンス』でもそのような発展に触れた。ある規模の社会組織体制下の経済で、無制限環境下の “いい人”戦略による経済の営みにより人口が増加、その規模での環境の限界に達して制限環境下に至り、 今度は“利己的”戦略優勢になって、帰属集団間の争い状態乃至は戦争が生じ、既存の社会組織体制の壊滅、 次の規模の体制への拡大が起こり、同時に争いによる既存組織の消滅により、新たな無制限環境下の “いい人”戦略によるある意味しあわせな競争がまた始まり、その規模の社会組織体制における経済の発展 と技術の発達が次にまた達成される。それが経済規模を拡大させ、そしてまた、そしてまたと同じことが 繰り返される。平安末期の守護・地頭の村組織から、地侍による郷の経済になり、さらにそれが藩（大名） へ統合されて、大きな規模の社会組織体制と経済体制に変化していった。江戸期を通じて、 藩から国の規模になり、それが明治に日本国という国民国家が生まれた起源だと思う。そして、「新・ 映像の世紀」が映し出したものとは、山登にはこの短い100年のうちに（または団塊の世代である山登 の一生の間のうちに）、各国国民国家が独立に営んでいたいわば国民国家割拠の経済体制が、 資本主義と金融革命などの技術革新のお陰で、地球世界全体の経済体制に（つまり、今度は国の規模から 地球人類全体の経済体制、そして社会組織体制に）移行する過程に見えたのだ。一人の人間の一生の 間に、経済や社会組織体制が次の段階へ発展拡大する過程を目の当たりにするなど、これまでの人類の 歴史にもなかったことではなかろうか。

さて、第一次世界大戦では、ドイツ帝国、オーストリア・ハンガリー帝国、オスマントルコが 大英帝国、ロシア帝国、フランス（共和国？）などと、さらには第二次世界大戦では大日本帝国、 イタリア、ナチス・ドイツがアメリカやイギリスなど連合国と戦った。この時代、世界は各国民国家に 分割されていた。経済規模は、各国それぞれ一国の経済が中心であった。金本位制の下、 国際貿易額は些細なモノだった。しかし世界の富の制限環境下にあって、各国はその経済力に応じて、 世界の富を奪い合いつつあった。各国による“利己的”戦略優勢な競争であった。それは当然、 それ以前の科学技術の発達に負うところが大きい。ロックフェラーによる石油、フォードの自動車、 エジソンの電気製品、などなどである。経済は急速に拡大、資源を争って奪い合った。ナチス・ドイツは 国民国家体制の枠組みでヒトの持つ本性の一つ協力欲を利用して、自国民を戦争に駆り立てた。 社会的弱者排斥、特にユダヤ人虐待を行った。これは自国民の国民国家としての自国への帰属意識を 高揚させる上で大いに役立った。そして戦争終結、国際連合という枠組みの模索に未来を託した。 その後の冷戦などを経て、今や世界の経済規模はグローバル化のお陰で、未曾有の拡大を果たした。 日本のGDP500兆円（世界第三位とされる。一方国債の借金1千兆円）に対し、世界の推定GDPは10京円、 金融革命により世界の通貨量はその10-100倍であろうとされる（これは明確には推定しようもない らしい。何故なら、デリバティブなどのレバレッジにより、実質通貨の何倍の信用が世界を駆け 巡っているか推定しようがないからだそうだ）。そんな額の金が、信用が、世界を瞬時に駆け巡り、 資本主義の自由競争に任されて、効率よく次のより大きな利潤を探し求めて闊歩している。 もはや一国の経済規模程度なら、世界経済に呑み込まれ翻弄されてしまう時代になってしまったのだ。 それが冷戦後の世界経済の情勢である。20世紀前半は各国民国家内の経済が中心で、各国が地球資源を 巡って“利己的”戦略で奪い合いをし、戦争をした。そこでの覇権国は、敢えて言えば アメリカだったろう。しかし、その後アメリカも国民国家のままで、世界を制覇したわけではない。 つまり社会組織体制は以前のままで、経済規模だけが、各国民国家を乗り越えて、世界規模に 拡大してしまった。

今や世界経済においては、実質的には各国民国家は有って無きの如くの存在となり、（境界は 消えて）地球規模の経済体制が生まれつつある。しかも効率の良い自由競争資本主義経済体制の下、 地球資源枯渇、制限環境下の“利己的”戦略優勢な社会になってしまっている。中国などは、 以前の国民国家同様、例えば南沙諸島問題はじめ、国を挙げての奪い合いを展開しているようだ。 しかし、もはや各国民国家の出番は減り、各企業なり各個人がそれぞれ前面に出る競争が展開されて いると見なすことができよう。しかも国際間での明確な経済ルールも警察組織も未だ無いのである。 何故なら、権限の小さい国連はあっても、地球人類全体を統べる社会組織体制は未だ確立されて いないからだ。（以前なら、その経済規模に対応する規模の、新たな社会組織体制が出来上がって いたのにである。こんな状況はこれまでに人類は経験したことが無いはずだ。）だから各企業や 各個人は、結局お互いの“利己的”戦略の餌食になっているのではないだろうか。ところがそんな中、 未だに各国が国民国家の枠組みに縛られ、指導者たちは、自国の経済発展だけを唱えているしか 無くなっている。（枠組みが国民国家体制であるため、各国の指導者は自国の発展を自国の国民に 訴えるしかないのだ。ところが自国だけの経済発展などもはやあり得ない。国際経済の規模も 緊密さもそれを許さないほど大きく、かつ密になってしまっている。本来は、各国指導者も、 国際経済全体を見通した、地球全体のための発展を考え、訴え、各国を導く義務が生じている はずなのにである。つまり国民国家という帰属集団も形骸化してしまっているのに、その帰属集団に 固執する各国指導者層は、地球人類の行く末を誤らせるだけであろうと憂えている。何故なら、 制限環境下の自国帰属集団だけの利益追求は、他国民・地球人類全体の利益に相反するはずだから。） これだけ国際経済がグローバルに境界もなくなった以上、ある意味EUに習って、国連中心の 社会組織体制に移行してはどうだろうか。つまり、従来の国民国家体制の解体を実行するのだ。 そうすれば、EUに対するメルケルドイツ首相のように（最近の国内テロに直面しても、 メルケル首相はシリア難民やその他移民の積極的受け入れを継続すると宣言している。 彼女には地球人類のあるべき未来像が見えているのではなかろうか。大変に尊敬する）、 各国の指導者層は地球人類全体に対する目標なりメッセージを発することが可能になると期待する。 しかも、国民国家体制から次の地球国への移行に際し、これまでの歴史には無いことかも知れないが、 もはや戦争で覇権争いをして次の規模の社会組織体制に拡大するなど不可能な時代であろう。 （ヒトは誰もがホモ・サピエンスとして人類の仲間なのだから。その仲間70億人が、 何とかこの地球上で継続生存することが今求められているはず。）是非、平和裡での地球国への 社会組織体制移行を期待する。

そしてその時の社会組織体制は、 『２１世紀のホモ・サピエンス』で提案したように、情報の世界的普及と50人規模を 考慮した自給自足圏の確立が主軸になろう。もちろん科学技術の発展も重要であり、 またやはり、もはや資源枯渇に直面して息絶え絶えの地球環境をいたわるためにも、 あまりにも効率の良い自由競争資本主義体制を見直して、ある程度の“自由”の制限も 止む無しであろうと思う。山登の視点はじめ、 つぶやきの経済欄（現代経済学批判、 現代資本主義社会で行われている金融政策の大きな勘違い） や将来像欄（将来像、 イギリスEU離脱確定、今後は？）なども参照してください。

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